2009年の行方不明・失踪事件トピックス




○ 本項では、2009年の各種媒体におけるニュース記事で筆者が興味を覚えたものを気の向くままに紹介している。
○ 記事の幾つかは、筆者が管理するブログ「在るか、在らざるか」から抜粋、加筆、訂正を加えたものである。
○ 
赤字は失踪者未発見の事件であるが、一般に、人が行方不明になったという事実はニュースになっても、その後発見されたという事実はニュースにならないことが多い。情報収集に努めているが、解決済の可能性があることを断っておきたい。


 研修の名目で日本を訪れた中国人が失踪するという事件が、ここ1、2年の間続発している。無論、制度を破って失踪する側が悪いが、管理者の責任も問わざるを得ない事件が起きていた。
 長崎県西海市で、青果卸売業者に不当な賃金で雇用されていた中国人研修生が失踪、業者が最低賃金法違反で書類送検されるという事件があったのだが、研修生の受け入れを決めた西海市が、失踪に7か月もの間気付いていなかったのである。
 しかも同市は、本来年間235時間の日本語研修を行わねばならないところ、実際には2割程度の時間しか行っていなかったという。まことに杜撰な管理実態である。


 中国で居栄華(ジュー・ロンホワ)さん夫妻の娘、居蒙(ジュー・モン)さん(13)が、昨年10月3日、友人とスケートをしに出かけたまま行方不明になっており、未だ彼女の行方はつかめていない。
 娘を突如失った夫妻は、悲しみのあまり突飛な行動に出た。旧正月の間、娘の代わりとなる女の子をネットで募集し始めたのである。報酬は5,000元(日本円で約6万6,000円)。
 失踪事件は無論、残された者にとっては悲しいものである。だが、このような悲しみの癒し方が許されるのか。中国のネット上では議論が巻き起こっているという。
 いかなる形であれ、代替となるものを求めた時点で失踪者は忘却の淵に沈んでいくのではなかろうか。失踪者がその存在をこの世に保ち続けるためには、残された者は失踪という現実を受け止め続けねばならないのだと思う。


 1月7日に和歌山−徳島間を航行中のフェリーで、香川県三豊市の小学5年生男児(11)が行方不明となっており、海上保安部等が捜索を続けていたが、2月8日、少年の母親が「うちの子では」と当局に連絡、少年の無事が確認された。
 事はフェリー到着後、小人(12歳以下)のチケット1枚が回収されていないことが判明したことに端を発する。乗船券売り場の防犯カメラに写っていた少年の姿がその後確認できなかったことから、少年が海に落ちたのではないかとして、捜索が続けられていたのである。その後家族からの届けも無かったことから、少年が家出人という可能性も視野に入れられていたようだ。
 実は少年は、家族と一緒に車で乗船する際、「社会勉強のため」と、一人で車を降りて乗船券を購入していたのである。通常の乗船の場合は、降りる際に購入した乗車券の半券を回収するのであるが、車による乗船の場合は人数を確認して料金を徴収するのみ。ところが少年は下船時には車に乗っており、フェリーは半券を回収できなかったのであった。


 2月24日、元札幌地裁部総括判事で札幌中公証役場公証人の吉村正さん(62)が、08年12月10日から行方不明になっていることが判明した。
 札幌法務局と家族によると、吉村さんは12月9日から職場を欠勤。翌10日午前9時半ごろ、家族に宛てた「具合が悪いので帰る」という電子メールを最後に連絡を絶ったため、家族は同日、札幌南署に捜索願を出した。3日後の13日に小樽市内で吉村さんの車が見つかったが、車内は無人で現金なども残されていたという。


 1991年10月1日、神奈川県横浜市の小学3年生野村香さん(当時8)が、書道教室に出かけたきり姿を消した。未だ彼女の消息は不明である。
 今も元気でいれば彼女は20代。そんな彼女の想像の似顔絵が、指名手配犯の似顔絵作成などで度々警察に協力している横須賀市湘南国際村の画家、須藤真啓さんの手で作成された。
 作成に当たっては、香さんの家族に何度も会ったり、家族の25歳当時の写真を借りたりして、香さんが成長した姿のイメージを積み重ねたという。パソコンで作成されたというその似顔絵は、8歳の香さんの面影を残しつつ、上品なイメージが漂うものに仕上がっている。3月16日には近隣の鶴ヶ峰駅前などで似顔絵入りのチラシが配布された。
 失踪者の発見のためには、記憶を持続させなければならない。事件が風化し、人々の脳裏から失踪者の姿が消えたとき、本当の意味での無が訪れる。この似顔絵は事件の風化を防ぐ灯火になってくれることだろう。


 福島県いわき市東田町菖蒲沢、無職山本ヒデ子さん(61)が、3月1日から自宅に戻らず、届け出を受けたいわき南署は情報提供を求めている。同署によると、1日昼ごろに近所で住民が山本さんを見掛けたが、その後戻らないという。
 服装は不明だが山本さんは身長150センチぐらい、体重約40キロ。やせ型で頭髪は短めの白髪。情報はいわき南署電話0246(63)2141へ。


 北海道小樽市の無職、本間良和さん(50)宅で3月5日、台所の床下に腐敗した遺体があるのを、良和さんの長男(20)の同僚が発見、警察に通報した。
 司法解剖の結果、遺体は昨年7月から行方不明になっていた良和さん本人であることが判明。その後の捜査で、長男が病死した良和さんを遺棄していたことが明らかになった。「パニックになってしまった」などと供述しているという。
 日常生活において「死」というものが縁遠くなってしまった現代では、時折このような事件が発生する。「死」とは厄介もので、いざ遭遇するとどうすれば良いのかわからなくなってしまう人というのは、案外多いのだろう。
 実話ではないが、「消えたおばあちゃん」と呼ばれる都市伝説がこうした現代人の不安をよく表している。旅行途中でおばあちゃんが死亡。一家は「旅が終わってから考えよう」と、取り敢えずおばあちゃんを梱包して旅を続けるが、途中でおばあちゃんを乗せたままの車が盗まれてしまう。おばあちゃんは行方不明になり、死亡届も出せずにいる……という話である。
 「誰か運の悪い他人がこの問題を処理してくれた結果、残された家族たちはおばあちゃんの死によって直面させられた、誰もが死ぬのだ、という事実の重さから救済、解放されるのを感じるのだ」と、「都市伝説」の語を広めた有名な民俗学者のジャン・ハロルド・ブルンヴァンは述べている。(『消えるヒッチハイカー』新宿書房、p168)


 3月25日、アメリカ・オレゴン州のポートランドで少年少女たちが野球に興じていたときに、その事件は起きた。ボールを打ち1塁に走る9歳の少女が忽然と消え失せたのである。
 草むらに隠れて地面に穴が開いており、そこに落ち込んだのであった。彼女は仲間達によって無事救出された。


 大阪市西淀川区千舟の会社員、松本美奈さん(34)の娘で市立佃西小学校4年の聖香さん(9)が、3月7日から行方不明になり、西淀川署は同日、事件や事故に巻き込まれた可能性もあるとみて、聖香さんの写真などを公開して情報提供を呼び掛けた。同署によると、聖香さんは7日午前9時ごろ、松本さんに「勉強しなさい」としかられ口論になった。松本さんは弟(6)の小学校入学式のため外出して昼過ぎに帰宅したが、すでに聖香さんの姿はなかった。夜になっても帰宅しなかったため、同日午後9時半ごろ、松本さんが同署に捜索願を届け出たという。
 しかし調べが進むにつれ、母親の不審な行動が続々と明るみになる。公開捜査を渋る、マスコミを遠ざける、それまで購読していなかった新聞を取り始め、日中の捜索には碌に参加しない一方、夜には内縁の夫と共に焼肉を食べに行く……等々。しかも近所の住民によれば、聖香さんは頻繁に虐待を受けていたという。
 結果は大方の予想通りである。聖香さんは母親や内縁の夫らに虐待を受けて死亡し、遺体は山中に遺棄されていたのであった。大阪府警は4月23日日夜、聖香さんの遺体を奈良市の山中に遺棄したとして、いずれも無職の母親と内縁の夫の小林康浩(38)、その知人の杉本充弘(41)の3容疑者を死体遺棄容疑で逮捕した。


 4月29日午前10時半ごろ、兵庫県小野市の交番に女性が訪れ、言った。
 「子供が死んでいる」
 警官が駆けつけると、確かに子供は死んでいた――冷蔵庫の中で。
 この子供は2007年夏に4歳で死亡。その後、親の心に何が去来したのか。彼女は届出をしないまま、わが子の遺体を冷蔵庫に仕舞ったのであった。
 死体遺棄の容疑で逮捕されたこの女性は、大塚美由紀容疑者(33)。町の役員をしていた地味な女性であったという。警察は父親からも事情を聴いている。


 4月27日、アルプス山脈でキャンプ中だったネパール代表スキー・チームから、17歳の少年ウッタム・ラヤマジ君が、口論をきっかけに脱走、行方不明になるという事件が起きていたが、5月12日、パリの街で無事発見された。
 発見のきっかけとなったのは、アメリカの大手SNS「フェースブック」のキャンペーン。アルペンスキー世界選手権2009でネパールチームの渉外係を務めたフランス人学生、トム・バレーズさんが始めたもので、コミュニティ参加者はまたたく間に400人を突破した。
 脱走後、フランス国内を放浪していたラマヤジ君は、キャンペーンを知る人に状況を知らされたことで帰還に応じたという。ネットが行方不明事件の解決に役立った一例である。
 それにしてもこの少年、脱走時は金も持たず、英語もフランス語も話せなかったという。にも関わらず見知らぬ土地で2週間もの間過ごしていた生活力は大したものである。


 老人が9日に渡り行方不明。生存の見込みは無いと誰しも思ってしまうだろうが、人間の生命力はそう馬鹿にしたものでもない。
 沖縄県うるま市で、86歳の女性が5月16日から行方不明になっていたが、24日午後、同市の側溝に横たわっているところを発見された。右肩などに打撲があり、血圧が低くなっていたものの、命に別条はないという。
 発見したのは女性の孫の同僚。周辺住民と共に連日女性を探していたとのことで、地道な捜索が実を結んだ格好となった。


 4月下旬からヨットマンの米子昭男さん(62)がインド洋で行方不明となっており、「海賊に拉致された恐れがある」という情報もあったことから、外務省も乗り出しての捜索が続けられていたが、6月19日、タイ南部のプーケットで無事生存しているのが確認された。
 米子さんによれば、海賊に襲われたことはなく、予定より遅れて寄港予定地のプーケットに到着。しかしFAXが上手く送信できず、家族への連絡が遅れただけだという。また、常日頃から無線連絡を行っているわけでもないため、日本で騒がれていること自体を全く知らなかったとのこと。
 通信技術がかくも発展した今日においても、このような連絡の齟齬が起きるのである。とまれ、一安心といったところか。


 ロンドン・ヒースロー空港近くのある孤児院では、2006年3月ごろから身寄り不明の外国人の子供を専門に収容してきたが、これまでに最低でも中国系の子供77人が行方不明になっている。犯罪組織がこの孤児院を利用して子供を売買し、また中国人の児童を英国へ渡航させるための中継基地になっている可能性があるという。5月7日、台湾・中央通訊社が報じたもの。


 1982年、Gavin Parosさんは父のJosephによってハンガリーに連れ去られ、母と引き離されてしまった。
 再開を諦めていた母のAvril Grubeさんであったが、妹がGoogleでGavin Parosさんの名を検索してみると、SNSのフェースブックに彼らしき人物のページが。Avril Grubeさんが早速メールで連絡を取ったところ、紛れもなく自分の息子であった。Gavin Parosさんはハンガリーから来訪、27年ぶりの母子再会となった。


 マーク・サンフォード、アメリカ・サウスカロライナ州知事は、2012年の次期大統領選挙の候補者と目される程の政治的エリートであったが、その彼が6月に入り1週間ほど行方不明になるという事件が起きていた。知事側近が一度は「アパラチア山脈にハイキングに出かけた」と説明するも、後日撤回。空白の1週間についてマスコミは様々に推測していた。
 24日、ついに州知事本人が真相を語った。不倫相手と共にアルゼンチンに滞在していたのである。彼は2010年1月現在、知事職を継続中であるが、イメージの悪化は避けられず、大統領への道も険しくなりそうである。


 駅伝等の国内陸上競技における外国人留学生の活躍はよく知られているところであるが、そんな留学生の失踪が相次いで発生している。
 岐阜県瑞浪市の私立中京高校の陸上(駅伝)部に所属していたケニア人の男子留学生(20)が2007年に行方不明となり、今春に名古屋市で見つかっているし、私立豊川高校(愛知県豊川市)で、女子駅伝部員として優勝に貢献したケニア人留学生(17)が、帰国のための送迎車に乗らず逃走するという事件が起きている。
 ある高校駅伝関係者は、「競技実績だけでなく、日本の高校生としてきちんと勉強する意思があるのか確認したうえで留学生として招くべきでしょう」と指摘している。


 7月7日、イギリスはレイチェスターのAusten Hapengaさんは家中をひっかき回していた。、3歳の娘のMuumbeちゃんが忽然と姿を消したのである。だがいくら探しても愛娘は見つからず、不安は募る一方。ついにAustenさんは警察に通報した。
 近隣住民も捜索に乗り出し、熱探知カメラを装備したヘリコプターが出動する大がかりな捜索と相成った……と、ここまで書けば、察しの良い人はその後の展開もおわかりのことだろう。Muumbeちゃんはその間、自宅ですやすや眠っていたのである。服の中に埋もれた、スーツケースの中で。


 7月7日、ニューヨーク市のローワー・マンハッタンの職場から、用務員をしていたEridonia Rodriguezさん(46歳)が姿を消した。監視カメラの映像には彼女が出勤する様子は写っていたが、建物から出た姿は写っていなかった。
 11日、同じ建物のエアコンディション・ダクトの中から彼女の遺体が発見された。家族の話では職場で変な男が彼女を悩ませていたとのことである。その後の捜査の進捗状況は不明。


 愛知県常滑市立常滑西小5年、下村まなみさん(10)が、7月24日午前8時ごろから岐阜県郡上市高鷲町のひるがの高原キャンプ場で行方不明となっている。
 学校行事で23日からキャンプ場を訪れていたのであるが、24日午前7時30分ごろ、夜に行われる肝試しの下見のため4人グループで遊歩道を散策中、他の3人から離れていき、姿が見えなくなったという。25日には総勢215人で周辺のローラー捜索が行われたが、以前として女児は見つかっていない。
 遊歩道はアスファルト舗装で、道を囲むように斜面があるが、子どもではとても上れないほどの高さ。西側に小川が流れているが水深約20〜30センチで、「おぼれることは考えられない」(キャンプ場事務所)という。
 彼女は身長120センチでやせ形。ピンクの長袖の服、ピンクの長ズボンを着用。髪は短めで左右をゴムで留めている。情報は郡上警察署(0575−67−0110)まで。   

 http://www.pref.gifu.lg.jp/pref/s28113/news/manami.htm


 鹿児島市の宮崎太陽銀行鹿児島支店の行員(26)が、7月16日午前、得意先回りのため原付バイクで支店を出たきり行方不明になっていたが、26日、鹿児島市伊敷7の雑木林で遺体で見つかった。遺体は白骨化しており、歯型から本人と判断された。現場の状況から自殺とみられている。


 7月24日、マルタ船籍のロシア木材貨物船「アークティック・シー(北極海)が、フィンランドからアルジェリアに向かう途中のスウェーデン沖で、武装集団の襲撃を受けて消息を絶った。ロシア海軍はメドベージェフ大統領の指示の下に捜索を行い、8月17日(現地時間16日)に貨物船を無事発見、容疑者8人を拘束した。
 一見すると単なる良いニュースであるが、事件の不自然な点が物議を醸している。積み荷の総額が180万ドル相当に過ぎない貨物船の捜索に、大統領の号令の下軍隊が乗り出したのは何故か? 第一、欧州海域は警備が厳しく、長らく海賊被害は報告されていないのである。
 様々な憶測が飛び交う中、9月6日、イギリス・サンデー・タイムズ紙が情報筋の話として報じた内容は次の通り。貨物船はロシア製の対空ミサイルをイランに密輸しようとしており、これを察知したイスラエルの対外特務機関モサドが密輸阻止のため動いたのだという。これが事実なら、国際政治にはまだまだ我々の知らない闇が満ちていると言えそうである。


 「のりピー」こと女優でタレントの酒井法子(38)が、8月3日から8日までのおよそ5日間、長男(10)を連れて失踪するという事件が発生した。
 事は夫の高相祐一(41)が3日、覚せい剤取締法違反(使用)の現行犯で逮捕されたことに始まる。その場に居合わせた彼女は警官の所持品検査を拒み、そのまま姿を消したのである。翌4日には山梨県から彼女の携帯電話の電波が確認されるが、後にそれも途絶える。6日には長男が都内の知人宅で保護されるも、肝心の彼女は姿を見せず、一時は自殺説も囁かれた。
 ここまでは夫の逮捕にショックを受けたがゆえの逃避行という流れで話が進んだが、7日に警視庁が覚せい剤所持の疑いで酒井容疑者の逮捕状を請求、状況は一変する。折しも彼女の失踪と同日の8月3日には、歌手の押尾学が合成麻薬(MDMA)使用の疑いで逮捕されており、芸能界の薬物汚染が取り沙汰されていた。そんな中の事件とあって、悲劇のアイドルは一転、薬物という白い粉に塗れた汚れたクイーンと化す。
 8日午後、酒井容疑者は弁護士と親族ら3人に伴われ、警視庁に出頭する。9日にはこう自供した。「昨年夏ごろ、主人に覚せい剤を勧められて一緒に吸引するようになった」。自供を裏付けるように自宅マンションからは既に吸引器具、それに微量の覚せい剤が発見されていた。28日に彼女は正式に起訴され、所属先のサンミュージックからは同日付けで解雇された。
 10月26日の東京地裁の初公判には、20席の傍聴席に6,615人が集まった。これは日本の裁判史上最大の倍率である。11月9日に言い渡された判決は懲役1年6か月、執行猶予3年。検察側・弁護側双方が控訴せず、刑が確定した。
 その後の彼女は福祉の勉強をして一からやり直したいとしており、11月10日に群馬県の創造学園大学に合格していたことを明らかにした。
 つまるところ薬に手を出した芸能人が逃亡、後に怖くなって出頭したというだけの本事件であるが、警察庁長官が言及したり、動画サイトの「ニコニコ動画」に本件をネタにした「白いクスリ」(彼女の「蒼いうさぎ」という歌の替え歌)が投稿されるも後に権利者(※)の抗議を受けて削除されたり、どう見てもヤクザにしか見えない強面の男が保釈後の彼女を迎えに来たりと、小ネタにも事欠かず、2009年を象徴する事件ではあった。

※ ここで言う権利者とは、蒼いうさぎの著作権者でもなければニコニコ動画でもなく、「白いクスリ」に使用された音楽ソフト「初音ミク」の開発元であるクリプトン・フューチャー・メディアのことである。この辺りの権利関係及び騒動の流れはかなりややこしいうえ、失踪事件とは何の関係もないので、興味のある向きは他のサイトなどで調べられたい。20世紀であれば絶対に生じなかったであろう問題で中々興味深いものがある。


 8月27日、大阪府豊中市野田町のマンションの植え込みから、ほぼ白骨化した男性の遺体が見つかった。男性は同マンション3階に住んでいた独居男性(82)で、3月に行方不明になり、親族が捜索願を出していた。遺体に不審な外傷は無かったことから、現場で急死し、数か月間誰にも気づかれなかったとみられている。


 米カリフォルニア州の警察当局は8月27日、1991年に11歳で誘拐されたジェイシー・ダガードさんが発見され、ダガードさんを18年間監禁し、2人の子どもを産ませていたフィリップ・ガリドー容疑者とナンシー容疑者の夫婦を誘拐容疑などで逮捕したと発表した。
 ダガードさんは、サンフランシスコの東にある自宅近くで、バス停に向かう途中に車で拉致され、行方不明となっていた。警察の発表によると、容疑者の自宅は誘拐現場から160キロほど離れたアンティオクにあり、裏庭に隠れるように置かれた小屋やテントでダガードさんと2人の子どもを監禁していたことが分かったという。15歳と11歳になっている娘たちは、学校や病院にも行ったことがなかった。
 発見のきっかけは、ガリドー容疑者が25日、カリフォルニア大学バークレー校で2人の娘を連れて宗教関連のパンフレットを配ろうとしたことであった。警官が同容疑者の娘たちへの接し方がおかしいことに気付いたため、出頭を要請。出頭には妻のナンシー容疑者と2人の娘のほかに、「アリッサ」と名乗る女性が同行し、この女性がダガードさんと判明したという。

2011.2.12 追記
 ダガードさんは手記を出版することとなった。
(2010年9月28日 ロイター)


 9月8日、アメリカ・コネティカット州のイェール大学で、薬学を専攻する大学院生、アニー・リーさん(24)が行方不明になり、13日、同大学の研究棟の壁に埋め込まれた遺体となって発見された。研究棟に入るには特別なIDカードが必要なことから、内部事情に詳しい者の犯行とみられている。
 リーさんは遺体となって発見された9月13日、大学時代に知り合ったコロンビア大大学院生の婚約者と結婚式を挙げる予定だった。


 「クレヨンしんちゃん」で知られる漫画家の臼井儀人(よしと)(本名・臼井義人)さん(51)が、9月11日朝、「群馬県に日帰りで山登りに行く」と家族に言い残し、一人で埼玉県春日部市の自宅を出たまま行方不明になっていたが、19日、群馬・長野県境の荒船山にて遺体となって発見された。発見場所は登山道ではなく、群馬県山岳連盟によると「通常、人が行くような場所ではない」というが、臼井さんは一人で山に出かけることが多く、遺書や靴など自殺につながるものも発見されていないことから、下仁田署では同氏が写真を撮ろうとして転落したものとみている。


 9月17日午後11時40分ごろ、大分市佐賀関の海岸で、近くに住む自営業の男性(61)が、大分県警大分東署の飲酒検知を受けた後、海に飛び込み、行方不明になった。
 男はパトカー車内で飲酒検知を受けた後、警察官3人の立会いの下、小用を済ませた途端、近くの砂浜に飛び降りて海へと逃走。警官らも海に飛び込んで、男のズボンを掴むところまでは良かったものの、男はズボンを脱ぎ捨て泳ぎ去って行ったという。
 23日、男は水死体で発見された。


 10月12日、沖縄県西表島で男性1人と女児2人の親子がカヌーに乗ったまま行方不明となる事件が起きていたが、島内の民宿に該当者がいないか確認したところ、3人は無事宿泊先に戻っていることが判明した。
 どうやら騒ぎになる前、浸水したカヌーのために親子に排水用ポンプを貸した人がおり、その後ポンプが返却されないままであったことから、事故の可能性があるとして警察に通報されたことによる騒動らしい。
 教訓:借りたものはすぐに返す。


 10月15日、警察庁は、行方不明者の捜索に関する規定である「家出人発見活動要綱」を33年ぶりに見直し、新たに「行方不明者発見活動に関する国家公安委員会規則」を制定、「家出人」という呼称を廃して「行方不明者」とし、捜索願を出すことができる対象者も、親族や後見人に限定されていた現行の取扱いから、恋人や知人、会社の上司らに拡大する方針を明らかにした。
 自発的な失踪というイメージの強い「家出」という言葉を「行方不明」と改めることで犯罪や事故の可能性を明確にし、また捜索願の提出可能者を広げることで親族のいない独居老人などの単身者にも対応できるようにする狙いがある。ちなみに「行方不明者」は当初「所在不明者」とされる予定であったが、国家公安委員から「『所在』は物に使われる言葉ではないか」という指摘がなされ急遽変更したという、役所としては異例の対応がとられた経緯がある。
 また警視庁では11月、過去の未解決事件(コールド・ケース)を検証する特別チームである「特命捜査対策室」を捜査1課に配置、38人態勢で未解決事件や事件性の高い行方不明者の捜査に臨むことになった。時効停止を求める運動が起こるなど、未解決事件に対する関心の高まりを受けてのことだという。
 いずれも時勢に則った、至極もっともな改定ではないか。一人でも多くの行方不明者が見つかることを願いたい。


 アメリア・イヤハートは1937年に太平洋上空で消息を絶った女性飛行士であり、女性パイロットのパイオニアとして世界的に著名であるが、オハイオ州の国際女性航空宇宙博物館に展示されていた彼女の毛髪が、このたび偽物であると判明した。アメリアがホワイトハウスに招かれた際、メイドが発見したという毛髪であるが、実は単なる糸に過ぎないのであった。


 10月15日、アメリカ・コロラド州で、6歳の少年が気球で飛ばされたという通報があり、大捜索が行われるという事件があった。
 少年の名はファルコン・ヒーニ君。「弟がよじ登っていた気球が飛んでいってしまった」という兄の言葉を受けて空を見れば、確かに円盤型の気球が空を舞っている。警察やマスコミが大勢繰り出して見守る中、問題の気球は2時間後に落下。しかし気球の中にファルコン君の姿はなく、一時は転落死という最悪の事態も予測された。
 ところが記者会見中の保安官が家族から連絡を受ける。「彼は自宅にいます」。その言葉の通り、自宅に隠れていたファルコン君が両親と共に恥ずかしげに皆の前に姿を現した。周りを騒がせて怒られるのが怖くてどこかに隠れてしまうのはよくあることである。ここまでであれば人騒がせながら微笑ましい椿事で終わる事件であった。
 だがインタビューに答えたファルコン君が「ショーのためにやった」と爆弾発言。流行りのリアリティー番組への出演を狙った両親主導の自作自演劇であることが判明する。
 さあ捜索に参加した警察が、州軍が怒った。物見高いマスコミも怒った。ニュースで事件を知った野次馬も、あまり関係ないが取りあえず怒った。かくて両親は世論の一斉放火を浴び、約400万円の捜索費用を請求されたうえ、父親のリチャード・ヒーニ被告に禁固90日、母親のマユミ被告に禁固20日が言い渡されたという次第。自業自得とはこのことである。


 10月17日にアメリカ・ヴァージニア州で開催されたメタル・バンド「メタリカ」のライヴにて、参加していた女性ファンが行方不明になる事件が発生した。女性の名はモーガン・ダナ・ハリントン(20)。21時頃同行していた友人とはぐれ、以後の消息がつかめていないという。
 メタリカはオフィシャルサイトを通じてメッセージを発表、目撃情報の提供を呼び掛けている。
 「人として当然」と言われればそれまでであるが、メタルの大御所であるメタリカがかくも殊勝な行動に出ているのは少し面白い。


 奈良県橿原市内の西応寺住職、Aさん(29)が11月7日夜以降、行方不明になっている。市内の国道24号沿いに僧侶が乗っていたとみられる自転車が残されており、血痕が付いていたという。僧侶の家族が9日に県警に捜索願を出したもの。
 自転車は国道24号沿いの電柱に立てかけてあり、壊れたような痕跡はなかった。約1キロ離れた場所には僧侶の帽子が落ちていたという。事件を思わせる状況から県警は公開捜査に踏み切ったが、16日、失踪直後のAさんの姿が、大和八木駅と付近のコンビニエンスストアの防犯カメラに写っていることが判明する。ATMで現金を引き出そうとしていたとのことで、どうやら自発的に失踪したものらしい。
 彼が今どうしているのかは不明のままである。未だに行方をくらましているにせよ、無事に戻ったにせよ、もう我々が続報を聞くことはないだろう。

2010.1.18追記
 失踪していた庵戸真教(あんど・まさのり)住職は、17日、福島市内のスーパーにおいて、万引きの容疑で現行犯逮捕された。数日前から福島市で野宿などをしていたといい、「家出して金を使い果たし、万引きした」と供述しているという。
 成人男性の自発的失踪の疑いが強いこともあり、見つかろうと見つかるまいとニュースにはなるまいと思って上の文章を書いたのであるが、全く見当違いであった。失踪者の人生も色々である。


 長野県松本市に本部のある信州大学は、16日、8か月以上無断欠勤している男性事務職員を懲戒解雇したと発表した。この職員は3月12日に東京に出張後、家族に「これから大学へ戻る」というメールを発したのを最後に行方不明になっているという。家族が松本署に捜索願を出しているが、男性の氏名は今のところ公開されていない。
 自発的に失踪したのであればともかく、事件に巻き込まれた可能性のある失踪者に「懲戒解雇」とは随分酷薄な気がしないでもないが、8か月の期間を置いており、やむを得ない措置だったのだろう。
 あるいは自発的失踪を確信できる何かしらの証拠があったのだろうか。どうも情報不足の感がするニュースである。


 2006年に3,100万ドルの宝くじに当選したエイブラハム・シェイクスピアさん(43)が行方不明になっていることが11月9日、家族からの捜索願いで判明、フロリダ州警察が捜査に乗り出している。事件に巻き込まれた可能性が高く、情報には懸賞金5,000ドルがかけられているとのこと。3,100万ドルと比較して見劣りを感じなくもないが……。

2010.2.2追記
 CNNが報じたところによれば、2010年1月29日、フロリダ州の住宅地から、コンクリ詰めとなって埋められているシェイクスピアさんの遺体が発見されたとのことである。


 客船は失踪の宝庫である。密室であるから犯罪にはもってこいであるし、海に落とせば遺体は海の藻屑と消える。おまけに船の中は娯楽も少なく、良からぬことを思いつきやすい。
 今のは冗談であるが、年末に入って日本でも客船からの失踪が相次いでいる。12月4日には北海道苫小牧港に入港したフェリー「さんふらわあ・ふらの」から80代女性が行方不明に、12月30日には和歌山県潮岬沖を航行中の豪華客船「ふじ丸」からチーフコックの中司寿勝さん(54)が行方不明になっている。
 いずれも事件性は報じられていないが、客船から客が姿を消すことが多いという事実は特筆しておきたい。


 地方公務員尾久(おぎゅう)雅昭さん(55)の三男で、湯沢南中学校3年の尾久賢治君(15)が、10月7日から行方不明になっている。秋田県警湯沢署は11月15日、家族の要望を受けて、顔写真と共に公開捜査に乗り出した。
 調べによれば、尾久君は失踪当日、買った革靴のことで家族と口論になり、19時20分頃自宅を出たきり行方がつかめていないという。当時の服装は上下共にオレンジ色のジャージーで、所持金は1万円程度とのこと。情報は湯沢署(TEL0183・73・2127)まで。


 オランダのローラ・デッカーさん(14)は10代の夏を有意義に過ごすべく、途方もない企てを計画した。ヨットでの単独世界一周航海の記録を塗り替えようというのである。だが彼女の計画は「危険だ」という大人の事情に阻まれる。裁判所から計画の中止命令が下り、夢はそこで潰えた。しかも児童保護観察の対象にまでされるというおまけつきである。
 そして彼女は失踪した。発見されたのは12月20日のこと。場所はカリブ海、オランダ領アンティル内のサンマルタンという地である。無理解な大人達への反抗か、それとも自分なりに別の形で夢を実現させようとしたのか、そこのところはわからない。
 思春期の少年少女なら誰もが似たような事は思いつくかもしれない。だが、それを実行しようとしたのは稀有な例であろう。彼女の将来に幸あらんことを。


 直木賞候補にもなった小説「不思議島」などで知られるミステリー作家、多島斗志之(としゆき)(本名・鈴田恵)さん(61)=京都市伏見区=が19日から行方不明となり、家族が京都府警伏見署に捜索願を出していたことが25日、わかった。多島さんは家族や複数の出版社あてに失踪(しっそう)をほのめかす手紙を送っており、同署が行方を捜している。
 多島さんの著作を手がけた出版社によると、19日ごろに多島さんから「最近左目が見えにくくなってきた。両目を失明して人に迷惑をかけるのがいやなので失踪する。筆を置いて社会生活を終わりにする」などという手紙が送られてきたという。また、別の出版社にも21日に同様の内容の手紙が届いたという。
 多島さんは大阪府出身。「密約幻書」(講談社)や「クリスマス黙示録」(新潮社)などの作品がある。


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