失踪事件を扱った書籍




○ 本項では、失踪事件を扱っている書籍の個人的な感想を掲載している。
○ 信頼性を3段階で評価している(★〜★★★)。あくまで「信頼性」であって、面白さやお薦めの度合いはまた別の話である。★が多ければ実証的、少なければ与太話満載といった具合に理解してほしい。


2010.1.11 その他の書籍に5冊を追加
2009.9.22 その他の書籍に3冊を追加
2008.11.2 フランク・エドワーズの著作4冊を追加


1 佐藤有文

 妖怪・怪物を紹介する子供向けの本を多数執筆したことで知られる作家。内容はいい加減で、勝手な創作を多数含んでいるが、その著作のインパクトは絶大。水木しげるに次いで妖怪の普及に貢献した人ではなかろうか。人が忽然と消えてしまう現象にも強い興味を示し、「四次元物」というべき本を多数執筆している。

『四次元博物館 ミステリーゾーンを発見した』 (KKベストセラーズ) 1976.6.5初版発行

 報知新聞に連載していた「四次元博物館」に加筆、再構成したもの。「四次元」などと名乗っているが、幽霊からUFO、予言といった不思議な現象を手当たり次第寄せ集めた内容となっており、統一感は皆無。だが、それが却っておもちゃ箱的な面白さとなっている。
 刊行が古いせいもあろうが、収録されている話の多くは既に論破されたものが多い。例えば、マヤ文明の遺跡から発見された「宇宙船に乗る古代マヤ人のレリーフ」(横に見るからそう見えるだけで、実際は縦に見ると証明されている)の話がそのまま疑いも差し挟まれず掲載されている。

【収録されている失踪事件】
 デイビッド・ラング失踪事件ジェラルド・ビダル事件、スペイン兵士テレポート事件、藤代バイパス車両失踪事件、ノーフォーク連隊集団失踪事件、中国兵士集団失踪事件、ネフド砂漠におけるイギリス空軍兵士失踪事件

信頼性:★☆☆(2008.5.11記)

『キミは信じられるか 四次元ミステリー』 (KKベストセラーズ) 1981.8.5初版発行 

 同氏の著作の中では最もくだらない部類に入る本。
 いかにくだらないか、「地底人デロ」の項から実例を挙げよう。エレベーターに入った女性が次々に姿を消す。それは地底人デロによるもので、高度な文明を持ちながらセックスにしか興味の無くなった彼らは、特殊な装置を用いてエレベーターから女性を誘拐、「デロ、デロ、デーロ」(原文ママ)と奇声を上げながら性の饗宴に耽る……というお話。アホか。
 ミイラ船「良栄丸」といった定番の怪奇話も収録されており、全部が全部「デロ、デロ、デーロ」というノリなわけではない。念のため。

【収録されている失踪事件】
 フィンランド・ペレル湖畔の「人食い森」、バミューダ・トライアングル

信頼性:★☆☆(2008.5.11記)

『地球の中の 怪談ブラックホール』 (KKベストセラーズ) 1984.6.15初版発行

 昭和52年に発行された同名(?)の書籍の文庫版。
 「ブラックホール」などと題名にあるので、きっと失踪事件も多数収録されているだろうと思いきや、その手の話は地中海を飛んでいた飛行機が瞬間移動したという一件が紹介されている程度。他は怪談、怪獣、実在した殺人鬼の話などがごたまぜに収録されているだけである。

【収録されている失踪事件】
 地中海上空航空機瞬間移動事件

信頼性:★☆☆(2008.5.11記)

『謎の四次元ミステリー 地球の中の不思議ゾーン』 (青春出版社) 1990.8.5初版発行

 佐藤有文が四次元現象にかける思いのたけを全て注いだ一冊。例によって内容の信頼性は低いが、他の類書と異なり、この本は最初から最後まで四次元失踪事件一色。手に入れたときは胸が躍ったものである。
 この本の最大の見所は「四次元学入門」と題された項目で、何の前触れもなく、あたかも自明の理であるかのように「四次元怪獣」なる怪物が登場する。明らかに荒唐無稽なのは言うまでもないのだが、その筆致があまりに自信に満ち溢れており、なおかつメビウスの輪やクラインの壺を持ち出した一見科学的な説明(出鱈目だが、なかなか凝っている)が加えられているので、読者はその迫力に圧されること間違いない。さらに後半には「四次元パトロール」までもが登場、隊員が守るべき掟が列挙されている。佐藤先生、やりたい放題である。
 実在した怪事件を取り上げたという触れ込みの本で、ここまで著者オリジナルの設定(妄想)を盛り込んだ本を、私は他に知らない。四次元、失踪、神隠しという言葉に興味を抱く人は、是非一度手にとってみてほしい。

【収録されている失踪事件】
 数が多すぎるので省略

信頼性:★☆☆(2008.5.11記)

2 桐生操

 殺人や拷問といった、人間の暗部にまつわる本を多数書いている女性作家。女性2人の共用ペンネームである。コンビニや駅のキオスクでも本が売られてたりするので、手に取ったことのある人は相当多いだろう。怪現象に関する著作も多く、大変簡潔で読みやすい内容が特徴。
 ただ、この人の書くものは俗説や通説をさらりとなぞるだけのものばかりで、著者のオリジナリティがほとんど見られない。中には無名ライター集団の手によるものと思われる本と同工異曲なものもある。もっとも、私が読んだことのある彼女の本がたまたま薄い内容であった可能性もあるが……。
 彼女の本には必ず巻末に参考書籍一覧が掲載されている。それ自体は大変良い心がけだと思うが、参考書籍の中身をそのまま流用している疑いがないでもない。
 私は彼女のある本(図書館で借りたため名称は失念)で、偽エチオピア皇帝に扮装して英海軍をコケにしたヴェア・コールなる人物の存在を知った。その後時を経て、種村季弘の『詐欺師の楽園』(岩波現代文庫。原著は1975年刊)を手にする。「贋エチオピア皇帝の訪れ」という項でヴェア・コールが紹介されていたが、その内容は私の記憶の中のそれと瓜二つであった。

『世界の幽霊怪奇 本当にあった不気味な話』 (青春出版社) 1992.8.5初版発行

 その名のとおり、世界中の怪談・奇談を集めた一冊。
 聞いたことのないような外国の怪談を数多く収めており、そちらの分野に興味がある人にとっては興味深いかもしれない。私は幽霊話には関心が薄いため、軽く流し読みした程度。
 同書に収録されている、アフリカはアンゴラ帝国のジンガ女王の話が印象に残っている。人肉が好物で、無礼を働いた農民600名を集め、全員を粉ひき機に突き落として殺害するような暴君だというのだが、実話なのだろうか? 600人が黙って粉ひき機で挽かれるという光景が今一つ思い浮かばないのだが……。

【収録されている失踪事件】
 ホイータ号失踪事件、バミューダ・トライアングルデイビッド・ラング失踪事件ジェラルド・ビダル事件

信頼性:★☆☆(2008.5.11記)

『世界史 迷宮のミステリー2』 (ワニ文庫) 1993.5.5初版発行

 世界史上の謎が残る事件をまとめたもの。「2」とあるので前作もあるはずだが、未読。シャロン・テート虐殺事件や人民寺院事件など、桐生操らしく血生臭い事件が多い。
 間違いなく実際にあった事件を取り上げているので、そう突飛な内容は書かれていない。通説から週刊誌的な陰謀論まで幅広に紹介し、どう考えるかは読者におまかせといったスタンスに貫かれている。

【収録されている失踪事件】
 アメリア・イヤハート失踪事件

信頼性:★★☆(2008.5.11記)

『世界史 戦慄の怪奇ミステリー』 (にちぶん文庫) 1993.7.25初版発行

 世界中の怪談・奇談を幅広く紹介するという、桐生操お得意の本。
 結構マイナーな失踪事件も取り上げている。エル・ドラドを求めてアマゾンのジャングルに消えたフォーセット大佐の話はこの本で初めて知った。さっきから私は桐生操について、結構辛辣な内容を書いているが、何だかんだ言ってこういう埋もれがちな事件を本にして世に出してくれる作家はありがたいものだと思う。

【収録されている失踪事件】
 フォーセット大佐失踪事件、アイリーン・モア灯台事件、マイケル・ロックフェラー失踪事件、デイビッド・ラング失踪事件

信頼性:★☆☆(2008.5.11記)

『ヨーロッパ・歴史と謎の名所物語』 (ワニ文庫) 1996.2.5初版発行

 ヨーロッパ各地の名所を、その地のエピソードと共に紹介している本。
 ローマの「骸骨寺」や、かつてギロチン処刑が行われていたフランス・コンコルド広場を取り上げているあたりが桐生操らしいが、水で有名なエビアンや『ハムレット』の舞台となったクローンボルク城など、怪奇とは無縁の場所も多数紹介されている。一風変わった旅行ガイド本と見ると面白い。

【収録されている失踪事件】
 ハーメルンの笛吹き男(ドイツ・ブンゲローゼ通り)

信頼性:★★☆(2008.5.11記)

3 フランク・エドワーズ

 フランク・エドワーズ(Frank Edwards 1908〜1967)は、奇妙な現象、特にUFO関係を精力的に取り扱った著作で知られるアメリカの作家である。元はラジオキャスターであり、同じように放送業界出身で後にUFOで有名になった矢追純一の経歴を思わせる。
 著作を読んで感じさせられるのは、この人は自分に都合の良い話(=超常現象を肯定する意見)しか聞かない、ということである。彼は頻繁に、「当局は〜と否定するが、科学者の○○は〜と言っている。当局は嘘をついている」という論法を用いて超常現象を肯定する。「当局」の裏づけには圧倒的多数の科学者が関与しているという事実を無視し、一部の「科学者」の発言の真偽を一切考慮しないこの論法が、著しく妥当性を欠いているのは言うまでもない。
 万事がこのような調子ゆえに、得意分野のUFO業界においても評価は低いようである。UFO神話が定着するに至った経緯を考察した、C・ピープルズの峻厳実直なドキュメンタリー、『人類は何故UFOと遭遇するのか』(文春文庫。この本はお薦めです)でこのような評価を下されている。

 UFO本の標準からみてもエドワーズの本は、学問的とは言えず、あるUFO信奉者は、彼の調査を「まやかしもの」と呼んでいた。
 エドワーズの取ったスタイルというのは、面白くもない説明は、すべて馬鹿な行政機関が捻り出した愚かな嘘に過ぎないとして容赦なく却下する、という方法であった。


 物書きとしての氏の評価は上記に尽きる。
 しかし、50〜60年代という黎明期に矢継ぎ早に発表された氏の著作が、怪現象の膨大な鉱脈となったのも事実。この鉱脈から、今日まで語り継がれる怪現象が次々に産み出されていくのである。

矢野徹訳 『四次元の謎』 (角川文庫) 1975.6.10初版発行

 原題“Strangest Of All”(1956、1962)。邦題の「四次元」という言葉には大して深い意味はない。60〜70年代は、とかく怪奇系の書籍に「四次元」だの「ブラックホール」だのと冠するのが流行ったのである。
 内容は世界中の奇談・怪現象を紹介するというありふれたものである。別に数えたわけではないが、UFO関係と人語を解する動物の話で全体の3割程度を占めており、当時のフランク・エドワーズの関心がどこに向いていたかが窺えよう。
 自説を否定する科学者への反感はこの頃から既に表れており、有名な「クマバチ飛行問題」を引き合いに出して科学者を嘲笑している。「クマバチ飛行問題」とは、科学者が、クマバチ(マルハナバチ)は航空力学上飛ぶことができないと証明したという話で、科学者の頑迷さを揶揄する際によく持ち出される逸話である。
 フランク・エドワーズに限らずこの話を誤解している人は多い。これはAntoine Magnanというフランスの昆虫学者が1934年に語った話に由来しており、「現在の科学知識ではクマバチの飛行法は説明できない(だから更なる研究が必要である)」という、学者としてごく穏当な意見を述べているに過ぎない。決して「飛ぶことができないと証明した」わけではないのである。当然だろう。現にクマバチは空を飛んでいるのだから。
 宇宙人のUFOだって、実際に飛んでいる姿が白日の下に晒されれば、世界中の科学者は喜んでそれを認めるだろう。科学とは現実を否定する営みではなく、現実を受け入れてその謎を解き明かす営みだからである。ただ、その「現実」の見極め――何が本当で、何が嘘であるか――に厳格なだけのことだ。

【収録されている失踪事件】
 シーバード号乗員失踪事件、マラソン号失踪事件、メアリー・セレスト号事件、アイアン・マウンテン号失踪事件、ミシシッピー・クイーン号失踪事件、ホルチュウ号失踪事件、ジョイタ号失踪事件、アイリーン・モア灯台事件(本書では「フラニン灯台」と表記)

信頼性:★☆☆(2008.11.2記)

斉藤守弘訳 『しかもそれは起った』 (早川書房) 1963.9.30第三版発行
中場一典、今村光一共訳 『ストレンジ・ワールド1』(曙出版) 1990.12.25初版発行

 原題“Stranger Than Science”(1959)。イヌイット村人集団失踪事件を捏造したのはこの本である。
 自分が確認できている範囲では、前著『四次元の謎』を除き、フランク・エドワーズの怪奇本には新旧2種類の訳が存在する。旧約はハヤカワ・ライブラリー版(後に角川文庫)であるが、残念なことに原著の半分程度の抄訳、しかも角川文庫版は更に分量が削られているとのことである(『世にも不思議な物語』、庄司浅水の後書きによる)。
 対する新訳の曙出版「ストレンジ・ワールド」シリーズであるが、中身を見るに、こちらも抄訳にとどまっているようである。のみならず「ストレンジ・ワールド」は、小さな記事を勝手に「コラム」扱いするなど、原著の構成に大幅に手を加えている節が見受けられる。よって本項は、原則として旧約に拠ることとした。
 本書であるが、シリーズ4作の中では最も扱っている事件のバラエティに富んでおり、お得意の科学者・行政批判も目立たないものとなっている。

【収録されている失踪事件】
 デイビッド・ラング失踪事件イヌイット村人集団失踪事件バミューダ・トライアングル(5機のアヴェンジャー機、マーティン・マリナー、スター・タイガー、スター・エリアル)、飛行船L-8号乗員失踪事件、シーバード号乗員失踪事件、アイアン・マウンテン号失踪事件、コペンハーゲン号失踪事件、スペイン戦争騎兵隊失踪事件、フランス植民地騎兵隊失踪事件、中国兵士集団失踪事件、タマコ氷河に墜落した飛行艇乗員失踪事件

信頼性:★☆☆(2008.11.2記)

北川幸比古訳 『超能力者の世界』 (角川文庫) 1975.6.10初版発行
松岡敬子、今村光一共訳 『ストレンジ・ワールド3』(曙出版) 1991.7.8初版発行

 原題“Strange People”(1961)。「奇妙な人々」という書名の通り、自称超能力者や奇形者など、主として変わった能力を持つ人々に焦点を当てた作品。「白痴天才」(凄い訳だ)の項では、日本から「裸の大将」山下清画伯が紹介されている。
 一番最初に登場するのはルル・ハーストという超能力者である。彼女は自分は超能力者ではないと自白、一部現象について種を明かし、その告白は本書でも紹介されているのであるが、対するフランク・エドワーズの反論(!)が振るっている。「教育の無い彼女がこのような告白をするのは不自然」、「以前までの証言が嘘であったとは到底思えない」などと主張するのである。彼が人の話をまるで聞く気がないというのがよくわかる。
 失踪事件としてはロアノーク島植民地の話が紹介されているのみ。この話だけ他から浮いている。

【収録されている失踪事件】
 ロアノーク島植民地集団失踪事件

信頼性:★☆☆(2008.11.2記)

庄司浅水訳 『世にも不思議な物語』 (角川文庫) 1975.5.30初版発行
松岡敬子、今村光一共訳 『ストレンジ・ワールド2』(曙出版) 1990.12.25初版発行

 原題“Strange World”(1964)。
 人体の自然発火、海の怪物等、前著で見たことがある内容が多く、焼き直し感が目立つ。流石に4作目ともなればネタも尽きてきたのだろう。とはいえ、同じ現象を扱っていても、全く同じ事件の再録がほとんどないのは大したものである。

【収録されている失踪事件】
 デイビッド・ラング失踪事件イヌイット村人集団失踪事件、ネフド砂漠におけるイギリス空軍兵士失踪事件、リビア砂漠に不時着したアメリカ空軍爆撃機乗組員失踪事件

信頼性:★☆☆(2008.11.2記)



4 バミューダ・トライアングル関係

 バミューダ・トライアングルは失踪多発箇所として非常に有名であり、それゆえ関連書籍も膨大な数に上る。その中から筆者が有するものを紹介したい。

チャールズ・バーリッツ著、南山宏訳 『謎のバミューダ海域 完全版』 (徳間文庫) 1997.4.15初版発行

 全世界20か国で翻訳、500万部以上を売り上げた“The Bermuda Triangle”(1974)の翻訳。1975年に一度翻訳されているが(訳者は同じ南山宏)、本書はその完訳版である。バミューダの謎を語る上では外せない一冊。
 そのものずばりの書名と、バミューダの伝説を形作ったという触れ込みから、一冊全てバミューダ・トライアングルで埋め尽くされていると思いきや、およそ半分近いページがUFOやオーパーツ、アトランティスの伝説といった、バミューダ・トライアングル以外の超常現象に費やされている。トライアングルの謎を解く鍵が、これら科学で解明されていない現象に隠されているという趣旨なのだろうが、まとまりを欠いている感は否めない。
 明らかに常識外れで非科学的な現象を述べておきながら、批判的な態度が希薄である点が物足りないものの、全体のトーンとしては控えめであり、現象の真偽については読者に委ねるという態度で書かれている。とはいえ明らかな事実誤認や捏造が含まれているので、信頼に足る書籍とは言い難い。その辺りの批判については本サイトのバミューダ・トライアングルの項で触れているので参照されたい。

信頼性:★☆☆(2008.6.22記)

マーチン・エボン編 青木榮一訳 『バミューダ海域はブラック・ホールか』 (二見書房) 1975.8.30初版発行

 バミューダ・トライアングルにまつわる様々な言説を一つにまとめた本。肯定派・否定派双方の言説を幅広く取り入れており、中立的な本を作ろうとする姿勢が好ましい。主な執筆者は、編者のマーティン・エボン、「バミューダ・トライアングル」の語の生みの親ヴィンセント・ガディスなど。ローレンツ・クシュもマーティン・エボンによるインタビューの受け手として登場する。
 あたかも珍説を並びたてているかのような書名であるが、これは翻訳が悪い。原題は“The Riddle Of The Barmuda Triangle”(バミューダ・トライアングルの謎)で、ブラックホールとは何の関係もない。ブラックホール云々は、寄稿者の一人が、ごく一部の箇所で述べているに過ぎないのである。売上目的で珍奇な邦題をつけたのであろうが、編者のマーチン・エボンはバミューダ否定論者。こういった原書の意図を著しく損なうやり方には大いに異議を唱えておきたい。
 エドワード・E・コステーンという人による、アヴェンジャー機失踪事件の謎解きが本書の白眉である。バミューダの「謎」を喩えた次のような説明が殊のほか印象的だ。氏は3×3の正方形に並べられた点を示し、一筆書きで、しかも4本だけの直線で点を結んで見せよという。答えは大きな直角三角形に、90度の角から斜辺に向かって伸びる直線を描いた、傘のような形になる。
 四角形の形に囚われていてはこのクイズは解けない。バミューダの謎もそれと同じで、表面的な謎に囚われ、限定的な選択肢の中で事象を説明しようとするから、UFOや四次元といった突飛な説明が生じてくるのだと、氏は説明するのである。

【収録されている他の失踪事件】
 デイビッド・ラング失踪事件イヌイット村人失踪事件メアリー・セレスト号事件

信頼性:★★★(2008.6.22記)

ローレンツ・D・クシュ著 福島正実訳 『魔の三角海域 その伝説の謎を解く』 (角川文庫) 1975.9.30初版発行

 原題“The Barmuda Triangle Mystery-Solved”(1975)。アリゾナ州立大学の図書館員であった著者が、度々寄せられるバミューダ・トライアングル関係の問い合わせに興味を抱き、徹底調査したうえで完成させた一冊。
 内容についてはバミューダ・トライアングルの項で詳しく述べたので割愛する。若干、論理に不安を感じる箇所があるものの、バミューダ・トライアングルの謎解き本としては決定的なものであり、今なおその価値は減じていない。日本語版が絶版になっているのが惜しまれる。
 この本にはもう一つ素晴らしい点がある。訳者による巻末の後書きである。日本にSFを定着させた功労者である訳者は、超自然的な解釈が安易に「流行」し、センセーショナリズムに走るのを厳しく批判、次のように問いかける。

 なぜ彼らは、仮説を仮説として提示し、フィクションをフィクションとして楽しむことに満足しないのだろうか? なぜ彼らは、仮説を、あるいはフィクションをすら、現実と直結しようと躍起になるのだろうか。仮説から、検証を飛び越して、いっきに一般法則へと短絡したがるのだろうか?

 何故なのだろうか? この問いはスピリチュアルとやらが流行る今日の我々にも投げかけられている。

信頼性:★★★(2008.6.22記)

チャールズ・バーリッツ著 南山宏訳 『大消滅 その後のバミューダ海域』 (徳間書店) 1977.6.10初版発行

 原題“Without Trace”(1977)。チャールズ・バーリッツが前著から3年後、その後の研究や反論を受けて執筆した作品。
 客観性が低下し、妄想(願望)の度合いが強まっている。断定的な文章こそ巧妙に避けているものの、バーリッツがいわゆる古代の超文明やUFOといったものを信じたがっているのは明らかだ。バミューダ・トライアングルの謎を扱いながらあちこちに話を広げてしまっているがために、前著同様、本書もまとまりを欠いた内容となってしまっている。
 あまり面白い本ではないが、巻末に掲載されている143件もの「主要な消滅リスト」は、これからバミューダ・トライアングルの謎解きに本格的に取り組もうという人にとっては役立つだろう。ただし、クシュの批判を受けたにも関わらず、相変わらず掲載されている事件もあるので注意が必要である。

【収録されている他の失踪事件】
 ノーフォーク連隊集団失踪事件

信頼性:★☆☆(2008.6.22記)

リチャード・ワイナー著、青木榮一訳 『魔のバミューダ海域』 (二見書房) 1980.8.20初版発行

 原題“The Devil's Triangle”(1974)。バーリッツの“The Bermuda Triangle”とほぼ同時期に刊行されている。
 淡々とバミューダ・トライアングル内の失踪事件を紹介するという内容。決して超常現象的な解釈に走らず、紹介する事件の多くに事故や遭難といった現実的な結論を下しており、「悪魔の三角形」といういかにも扇情的なタイトルとは裏腹に、冷静な態度が保たれている。
 最初から最後まで遭難事故の記録で占められており、刺激的な内容を求める人々にとっては些か退屈な本かもしれない。広く人気を得るためにはバーリッツの本のように、無節操に盛りだくさんの要素を詰め込んだ方が有利なのだろう。そういった意味では、500万部を売り上げたバーリッツは上手かった。

【収録されている他の失踪事件】
 ドナルド・クロウハースト失踪事件

信頼性:★★☆(2008.6.22記)

5 その他

ミステリーゾーン特報班 『20世紀の大奇跡』 (河出書房新社) 1996.2.1初版発行

 「奇跡」という触れ込みでざっと100を超える記事を収録。
 圧巻の中身を見ると、「森で迷子になった子供をチンパンジーが救出」、「いくら切っても盲腸が生えてくる女性」、「忘れ物のおかげで奇跡的に命拾いした乗船客」、「キュウリを使って祈祷すると奇跡が起こる不動尊」……等々。とんだ奇跡のバーゲンセールである。
 スポーツ新聞の三面に載っていそうな小ネタが多いゆえ、初めて聞くような事件も多く、そういった意味では楽しめた。中でも、1989年10月、アメリカで平均を遥かに超える3万人もの人間が失踪したという記事は、いつか詳しく調査してみたいと思っている。

【収録されている失踪事件】
 1989年10月のアメリカにおける集団失踪、フィンランドの「人食い森」、バミューダ・トライアングル(ただし事件の紹介ではなく、悪魔祓いが行われたというもの)、伝書鳩集団消滅事件

信頼性:★☆☆(2008.10.5記)

瑞穂れい子 『世界史ミステリー事件の真実』 (河出書房新社) 1998.10.1初版発行

 世界史上のミステリアスな事件を紹介。本の薄さの割りに収録事件数は多め。
 よくあるタイプの本で、あまり特筆すべき点は無いが、2章で「失踪事件の謎を解く」と題して失踪事件を次々と紹介しており、このようなサイトを運営している筆者としては大変興味深く読めた。ただ、イヌイット村人集団失踪事件が作り話であることを見抜けていないのはいただけない。

【収録されている失踪事件】
 ハーメルンの笛吹き男、イヌイット村人集団失踪事件メアリー・セレスト号事件アガサ・クリスティ失踪事件、アメリア・イヤハート失踪事件、グレン・ミラー失踪事件

信頼性:★★☆(2008.10.5記)

世界博学倶楽部 『世界史迷宮入り事件ファイル』 (PHP文庫) 2007.4.18初版発行

 内容は表題の通り。ファラオの呪いやメアリー・セレスト号といった怪事件ばかりでなく、サラエボ事件や出エジプトといった純粋な歴史学上の謎まで幅広く扱っている。
 41もの事件を手際よく、図表を交えて紹介し、文庫本サイズにまとめているのは見事である。個々の事件の掘り下げが足りず物足りなさを感じる面もあるものの、客観的に記述された好著。
 渤海国の滅亡やペルシア軍集団失踪事件といった、あまり巷間に流布していない事件を積極的に紹介する姿勢は好感が持てる。定番ものの謎が語りつくされた感のある今の時代、本書のようにマイナーな事件に光を当てていく力こそ、ミステリー愛好家に求められている(?)資質ではなかろうか。

【収録されている失踪事件】
 アガサ・クリスティ失踪事件、渤海国滅亡事件、ペルシア軍集団失踪事件メアリー・セレスト号事件

信頼性:★★★(2008.10.5記)

日本博学倶楽部 『世界史未解決事件ファイル』 (PHP文庫) 2006.8.17初版発行

 前掲書と同じPHP文庫の本。こちらは「日本博学倶楽部」が著者であるが、どうという違いは無い。装丁といい、文章の書きぶりといい、何から何まで「迷宮入り事件ファイル」にそっくりで紛らわしい。購入する前に、家に同じものが無いかどうか確認してしまった程である。
 サブタイトルに「アポロ11号映像捏造疑惑」とあるように、「迷宮入り事件ファイル」よりも若干、際物的な事件が多い印象を受ける。それは別に本の個性で構わないのだが、バミューダ・トライアングルを取り上げておきながら、ローレンツ・クシュらの研究に触れることなく、メタン・ハイドレード説に終始している点は感心できない。バミューダで発生している事故の幾つかがメタン・ハイドレードによるものだとしても、それは全体のほんの僅かの事故原因にとどまることであろう。

【収録されている失踪事件】
 ジム・トンプソン失踪事件、ハーメルンの笛吹き男、インダス文明の滅亡、バミューダ・トライアングル

信頼性:★★☆(2008.10.5記)

ブラッド・スタイガー著、青木栄一訳 『謎の大消滅 ブラック・スペースはどこに』 二見書房(サラブレット・ブックス) 1976.1.22初版発行

 謎の消失事件ばかりを集めた本。数えた訳ではないが、収録されている消失事件数は、かの佐藤有文『謎の四次元ミステリー』を凌駕すると思われる。収録事件数だけなら屈指だろう。
 著者のブラッド・スタイガーはUFO論者の一人で、その手の著作をいくつか執筆している。「謎の消失事件は宇宙人による誘拐だ」というのが彼の基本的な立場で、本書もそのスタンスに貫かれている。それゆえ信憑性に欠ける記述が多いのが残念だ。
 随分杜撰な記述もある。謎の消失譚を複数執筆し、自身も謎の失踪をとげたアンブローズ・ビアスの『アウル・クリーク橋の一事件』という作品を紹介しているのだが、そこで「ある男が橋桁からたらした綱で絞首刑に処せられる瞬間、念力で首にかかる寸前の綱を切り」と書いている。
 しかし、邦訳もされている原作(東京美術社から全集が出されている他、岩波文庫のビアス選集にも収録されている)を読めばわかるが、この話は、偶然綱が切れて、川の中決死の逃避行を行う男の話で、短編の名手ビアスの傑作の一つである。念力などと俗なものを持ち出すこと自体、本作をよく読んでいない証拠だと私には思えてならない。無事に逃げのび、妻の元に辿りついた男を待っていたのは――この先は是非皆さんご自身でお読みいただきたい。
 決して信憑性に高きを置くことはできないが、圧倒的な収録事件数と読み応えのある筆致は魅力的である。フランク・エドワーズやバーリッツほど説教臭くないのも好ましい。

【収録されている失踪事件】
 数が多すぎるので省略

信頼性:★☆☆(2009.9.22記)

『超常現象の常識119』 大創産業 初版発行年月日不明

 この本は変わっている。版元の大創産業とは、100円ショップで有名なダイソーのこと。本書は100円ショップで売られている豆本なのだ。
 その名の通り超常現象に関する119の話題、それもUFO、幽霊、超能力、都市伝説に偶然の一致といった定番の現象が紹介されている。たかが廉価本と侮るなかれ。全190ページの小柄な本にしては、そこらの俗流超常現象本が裸足で逃げ出す上出来な充実度である。
 裏を返せば、この程度の話題を単に紹介するだけであれば、もはや100円本で十分な世の中になってしまったということだろう。昔ながらの手垢のついた超常現象譚を工夫もなしに書いたところで、今や商業ベースに乗せることは難しい。誰も注目してこなかった新しい現象を取り上げるか、紹介の仕方を工夫しなければ、この手の業界で生き残っていくことは難しい――別にライターでも何でもない私だが、そんなことをふと思ってしまった。
 最近の例で上手く売った人物と言えば、手垢のついた話を何でもかんでも都市伝説と称して本を書いた、ハローグッバイの関暁夫だろう。彼の本は、その手の話に詳しい人にとってみれば月並みなものばかりで、内容的には本書を上回るものではない。ただ、都市伝説ブームという時流に上手く乗ったことでベストセラーと化したのである。

【収録されている失踪事件】
 バミューダ・トライアングルサンチアゴ航空513便事件、アイアン・マウンテン号失踪事件、ミシシッピー・クイーン号失踪事件、ノーフォーク連隊集団失踪事件、御徒町駅「被害者のいない人身事故」、メアリー・セレスト号事件

信頼性:★★☆(2009.9.22記)

斎藤守弘 『四次元の科学』 大陸書房 1971.12.30初版発行

 タイトルにこそ「四次元」とついているが、内容は古代文明やUFO、オルフィレウスの永久機関といった古今東西の不思議な現象を寄せ集めたもの。まことに四次元とは便利な言葉である。
 著者の斎藤守弘は東京教育大学出の自称「前衛科学評論家」。豊富な科学知識には定評があるようで、本書においても溢れんばかりの知識が披露されている。ただし、意図してか否かは不明だが、結論には飛躍が多く、その記述は全般的に胡散臭い。
 メアリー・セレスト号の項においても好意的に紹介したことがあるが、この本は「なるべく人と違った切り口を目指そう」という意気込みに充溢しており、中々楽しめる。推測に推測を重ねてSFチックな妄想と化している個所も見られるが、土台となっているのはあくまで真面目な科学知識。学のある人が気ままに暴走している感があって面白い。佐藤有文の本をより学術的にしたとでも言えばよかろうか。
 余談だが、著者は「歯」にやたらと関心が強く、本書で「抜歯奇祭」、「法歯学」、「歯で弾丸をとめた天才」、「人間と歯の奇談・怪談」、「金冠ラジオの四次元現象」と、歯の話題を5つも紹介している。本当に独特な一冊だ。

【収録されている失踪事件】
 イヌイット村人集団失踪事件、ライダ部落集団失踪事件、戦艦『サンパウロ号』失踪事件、バミューダ・トライアングルメアリー・セレスト号事件デイビッド・ラング失踪事件

信頼性:★☆☆(2009.9.22記)

平川陽一 『世界の超常ミステリー』 KKベストセラーズ(ワニ文庫) 1990.5.5初版発行
平川陽一 『世界の超常ミステリー2』 KKベストセラーズ(ワニ文庫) 1991.6.5初版発行
平川陽一 『世界の超常ミステリー3』 KKベストセラーズ(ワニ文庫) 1992.3.5初版発行
平川陽一 『世界の超常ミステリー4』 KKベストセラーズ(ワニ文庫) 1995.10.5初版発行

 ありとあらゆる不思議な話、怪現象を手当たり次第に集めた、同一著者による連続シリーズ。文章や中身は桐生操の劣化版といった趣で見るべき点はないものの、1冊辺りおよそ100以上という圧倒的な収録記事数をもって特筆に値する。
 これから集めて読もうという奇特な人がもしいるとすれば、シリーズ第1作をお勧めしておきたい。後半のシリーズに進むにつれ馬鹿馬鹿しい話が増えてくるからである。例えば「1」は「おそるべき津波のエネルギー」、「600ボルトの電気ウナギ」といった、自然の中の不思議な話を多数収録しているのに対し、「4」では「NASAは何かを隠している!」、「殺人犯に自白を強いた少女の霊」など、UFO・幽霊関連のゴシップめいた話ばかりが載っている。シリーズを4作も続けると流石にネタも尽きてくるのだろう。
 ネタ切れになるとUFOや幽霊の話が増えるのは決して理由の無いことではない。この両者は目撃者が「俺は見た」と主張すれば、それだけで成立してしまうからである。信憑性を求めるのでもなければ、目撃証言さえあれば足り、裏付けが必要ないというお手軽さが幽霊譚・UFO譚の特徴であり、だからこそ両者は怪現象の中でも一際有名なのだろう。
 著者の平川陽一はこの手の著作を多数執筆しているほか、本郷陽二の別名で一般向けの書籍を書いている。『言えそうで言えない敬語』、『Jポップの星たち 大塚愛物語』、『クリスティアーノ・ロナウド』など、間口の広さには頭が下がる。

【収録されている失踪事件】
 五大湖トライアングル、フェローシップ号失踪事件(以上「1」)、アレキサンドリアにおける花嫁失踪事件、イヌイット村人集団失踪事件デイビッド・ラング(本書ではジョー・ガラップと表記)失踪事件、日本の神隠し、ホイータ号失踪事件(以上「2」)、フィンランド・ペレル湖畔の「人食い森」、日本の神隠し(以上「3」)、ジェラルド・ビダル失踪事件(以上「4」)

信頼性:★☆☆(2010.1.11記)

黒沼健 『四次元世界のなぞ』 偕成社 1970.12.15初版発行

 実話という触れ込みで世界の怪現象を紹介する「少年少女/謎とふしぎの世界」シリーズの第1段。
 「なぞ」と平仮名表記されていることからわかるように、子供向けの本である。よって信憑性云々で目くじらを立てるのも大人げないのだが、この本に書いてあることはほとんど出鱈目である。
 甚だしい例を2つ挙げよう。まずは当サイトでも紹介しているアンブローズ・ビアスの失踪についてで、メキシコに旅立って消息を絶ったこの作家のことを、洞窟に入っていったきり消えたなどとまことしやかに書いている。
 もっと酷いのはクトゥルー神話で有名なH・P・ラヴクラフトについて書いた段で、ウィスコンシン州の自宅(これも出鱈目で、彼はウィスコンシン州に住んだことはない)から霧のように消え失せた、などとやっている。1937年に胃癌で死亡し、生涯愛したロードアイランド州プロヴィデンスの地に「I am Providence」と銘打たれた墓が残されているにも関わらずである。
 実在の著名人を扱った項ですらこういった具合であるから、無名氏が登場する他の項の信憑性も推して知るべきであろう。
 著者の黒沼健は、「空の大怪獣ラドン」等の生みの親で知られるSF作家。要はフィクション畑の人なのであって、この本も実話を謳ったフィクションとして楽しむのが正しい姿勢なのだろう。まあ、最初からそのつもりで読む人が大半だと思いますが……。

【収録されている失踪事件】

信頼性:★☆☆(2010.1.11記)



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